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アメリカのまちづくり |
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アメリカという新しい国。ヨーロッパの歴史的建造物とその町並み、あるいは日本の京都の古い町並みと比較すれば、アメリカで歴史的建造物として指定されるために必要な年数はたった50年程度である。しかし歴史を文化や人々の心の内として捉えるなら、アメリカには初期のヨーロッパからの移住者、その後のさまざまな国からの移民者によって受け継がれていく心の歴史が文化を彩る。 |
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人々が住みたいと思う魅力的な町には歴史がある。アメリカのトラディッショナル・ネバフッド開発(TDN)と呼ばれる、昔からある近隣の人々との社会的接触が活発なコミュニティを再現する手法は一般的に「ニューアーバニズム」といわれる。これは、アメリカのような新しい国で、短期間に魅力あふれる成熟した町を計画しようという試みである。アメリカの初期の郊外住宅開発における
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失敗から、コミュニティ重視のリゾートタウン「シーサイド」の試み、最近注目を浴びている「セレブレイション」のまちづくりまで、この潮流はアメリカにとって、幸せの追求の過程であり、自分たちの心象風景はどこにあるのかという歴史探しでもある。その努力は今も活発に続いている。そして彼らのその失敗、成功と努力は、アメリカ以外の国々においても学ぶべきところがあるだろう。 |
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アメリカの戦後住宅開発の失敗 |
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平和の戻った戦後の50年代において中流階級の人々にとってのアメリカンドリームの一つが、郊外に芝生の庭のある住宅を持つことであった。表玄関周りの緑の芝生とその庭を囲む白くペイントされた木の柵は今でもアメリカの幸せの象徴的なアイテムとして挙げられる。この郊外住宅の高い需要から金太郎飴のように没個性的な住宅開発が繰り広げられ、経済成長とテクノロジーの発展が目覚しい中、伝統的なものは軽視され、 |
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多くの問題を抱える結果となった。 人々が都心に仕事を持ちながら、自然豊かな郊外に住むようになったことからスプロール現象(郊外に宅地が無計画に広がっていく現象)が起こり、都市の空洞化を引き起こし、郊外住宅ではプライバシーを重視した低密度開発であることが近隣住民同士の監視の目を減らしたので、都市でも住宅地でも犯罪が増加した。車の普及が、都会に働き、郊外に住む生活を実現させたが、一方で環境
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悪化と高速道路建設等の問題、そのための通勤費による経済的圧迫を招いた。そして自然に恵まれた環境に住みながらも、現実には休息よりも通勤に時間を取られることになった。
機能主義重視と合理性を求めてなされた初期の住宅開発の失敗を踏まえて、アメリカのプランナーたちはこれらの問題点の解決策と、アメリカの理想の町として持つべき要素は何であるかを模索し始めた。 |
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ニューアーバニズム以前のニュータウン |
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ニュータウン運動はニューアーバニズムより20年以前に起こった。これも無計画な郊外住宅地開発の問題を解決しようというものであり、日本の田園調布にも適用されたイギリスのガーデンシティと呼ばれるまちづくりの思想を取り入れたものであった。しかし、ニューアーバニズムとは異なり、伝統的な都市計画で利用される格子状のストリート形式は避け、ループ道路と袋小路を利用した住宅地配置であった。(図参照)それは効率を優先した機能主義的理由である一方で、環境的には曲がりくねった道路は地形に沿い、枝分かれにグループ化された住宅地はインフラ設備のコストを下げ、既存の樹木を維持するのに役立った。全体的に敷地を開発するより小分けにすることで開発費を低くおさえることができた。このストリート形式は歩行者が道路を横断する地点を減らし、袋小路は車の交通量を減らした。その一方で車と歩行者を分離するための立体交差、トンネル、行き止まりが、コミュニティ内に人々の往来の少ない |
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死角をつくり、治安の面が問題になった。 今でも成功した開発のひとつとして挙げられるメリーランド州のコロンビアもこの時代のニュータウン開発に入るが、人口統計学的に様々な種類の住民の住む町、経済的に自給自足の町、車に依存しない町として計画されたにもかかわらず、人々は働く場と住む場所を別に求める傾向が強く、また商業エリアは町が成熟し顧客が十分現れるまで苦労するなど、まちづくり手法上、改善されるべき課題を多く抱えた。
ニュータウンの後に出現した ニューアーバニズムは建築と都市計画の流れを汲んでおり、ニュータウンが発展した形ではなく、むしろニュータウンへの批判からそれに対するアイデアとして生まれた。ループ道路と行き止まりよりも格子状のストリートパターンを用い、都市的なまちづくりを意識し、また建築スタイルに対しても関心が高い。
しかしニュータウンの第三期にはテキサス州ウッドランドのような |
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エコロジーを重視した開発「エコバーブ」(エコロジカルとサバービア〈郊外〉のもじり)がなされており、ニュータウンは決して失敗であったと全面的に否定されているものではない。実際今でも住宅開
発はウォーターフロントに面した区画と緑に面した区画が人々に好まれ価格も高いため、湖と緑道で敷地に区画の線を引き、行き止まりのある枝分かれ式を採用するケースは少なくない。この手法は町の活気を促進するよりは「閑静」な住宅地を形成する。
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| クルドサック(袋小路)のダイヤグラム。ゴルフ場の緑と人工湖で区画を仕切る |
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