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“地球環境について楽しく学べる公園”をキャッチフレーズに、 1999年4月に開園した「よこはま動物園ズーラシア」は、開園2カ月で70万人の入場者を数えた。
動物が本来生息している環境を再現する「生態的展示」で臨場感のある空間が楽しめるとあって、 子どもだけでなく大人にも人気の動物園だ。ジャングルへの旅を都会で体験してみよう。
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横浜動物の森公園は、横浜市の旭区から緑区にまたがる丘陵地に位置し、公園全体の面積が103haで、横浜国際総合競技場のなんと16倍の広さになる。そのうち動物園が53.3ha、今後整備される予定の植物公園が50haで、現在開園しているのは動物園部の64%にあたる34.1ha。日本の動物園としては最大級の規模を誇る。
現在、日本全国に動物園は100園近くあり、東京の上野動物園は年間の入場者数が300万人を超えるなどずば抜けて多いが、ズーラシアも開園以来毎年100万人以上の来園者を迎えている。
ズーラシアの特徴は、「動植物の保護」を基本テーマにしていることで、150種1500点の動物を擁し、そのうち39種が絶滅危惧種に指定されている希少動物となっている。その動物たちを繁殖・保護するために、公園内には繁殖ゾーン「横浜市繁殖センター」が併設されている。このようにズーラシアでは動物園の3つの役割「レクリエーション、教育、調査・繁殖」をすべて実践している。
もう一つの特徴は、動物を、その動物が生活している環境を含めて見ることができる「生態的展示」を行っていることだ。この展示手法が話題になったのは今からおよそ20年前、アメリカから始まっている。動物が本来生息している自然環境に近い風景や環境を |
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人工的に再現し、そのなかに動物を入れて、観客もそこへ入り込んだような感覚になる「ランドスケープイマージョン」と呼ばれる展示手法だ。世界でも有名なアメリカ・カリフォルニア州のサ
ンディエゴ野生動物公園もこの手法が多く導入されている。 ズーラシアに再現された人工環境は「アジアの熱帯林」「亜寒帯の森」「オセアニアの草原」「中央アジアの高地」「日本の山里」「アマゾンの密林」という6つの気候帯(バイオーム)で、2003年4月に新たに「アフリカの熱帯雨林」ゾーンがオープンし、さらに将来的には「アフリカサバンナ」が加わる予定だ。
「アフリカ中部のコンゴの密林は人類発祥の地といわれています。人間にとってとても意義のある場所なんですね。この4月にオープンしたアフリカの熱帯雨林ゾーンは、そういった意味でも感慨深いものがあります」と語るのは横浜市緑政局の石田一臣さん。現在、横浜動物の森公園建設事務所の担当係長で、今回私たちを案内してくれた。
アフリカの熱帯雨林ゾーンにはズーラシアでいちばん人気の珍獣“森に生きるキリン”と呼ばれるオカピがいる。そしてヘビやエボシドリなど熱帯雨林に生息する動物たちが、うっそうとした大木の下にひそんでいるかのように見ることができる。「朽ちた大木のレプリカは、ツタ植物が絡んで宿り木を |
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食ってしまった様子を表していて、熱帯雨林地帯にはよくある光景なんです。本物に見えるでしょう。こうした擬木の技術は年々向上していますね」と石田さん。確かに擬岩も擬木も本物そっくりだ。ゾーン入り口の古い鉄道橋や動物保護官のキャンプをイメージしたというインフォメーションコーナーは、それだけで臨場感を高めてくれる。
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さらにズーラシアの展示空間は、観覧動線と飼育動線を完全に分離し、獣舎を含めたバックヤードが観客から見えないように植栽や擬岩などで徹底的に隠している。また、観客と動物の間をモートと呼ばれる堀で区切る無柵放養式にして、動物が観客に近づくことができないようにしている。観覧空間、動物展示空間、修景空間の |
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 ツンドラ地方の夏の情景を表現しているアラースの谷。タイガで最も特徴のあるアラース地形をふさわしい規模で再現している(亜寒帯の森) |
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3つの空間が、それぞれ区切られていながらも、視覚的には景色がつながっているように見せているのだ。
もう一つ注目すべき点は、環境学習のためのさまざまな仕掛けだ。まずサインには動物の生態が絵と文字でわかりやすく解説され、すべてに点字と動物のレリーフが付いていて、視覚障害者でも手で触って動物の形を知ることができる。また、大型動物の近くには実物大のレプリカが置かれ、触れてその大きさや形を確かめることができるようになっている。このレプリカは大人気で、子どもたちがまたがって遊ぶ姿が絶えない。展示空間をガラス越しに見るビューイングシェルターと呼ばれるコーナーでは、シロクマやペンギンの泳ぐ姿を見たり、 |
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トラやオランウータンをガラス一枚隔てた間近な距離で観察することができる。園内のそこここにはベンチが置かれ、それぞれの気候帯にある住居を模した休憩所もたくさんあり、休みながらゆっくり巡ることができるとあって、ウオーキングを楽しむ高齢者も多い。園路はすべて6%勾配で抑えられており、車いすやベビーカーでも歩きやすい。
昼どきにはベンチや休憩所が、お弁当を広げている家族でいっぱいになる。 「人は動物を見るのが本当に好きなんですね。太古の昔から人間にとって動物は必要な存在なんだと、ここでは実感できます」。石田さんは最後にそう語ってくれた。
ズーラシアはこのような展示空間を通して、 |
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人々に地球環境の多様性を伝えるとともに、動物と人間のつながりやさまざまな環境問題に、目を向け、考える場を提供してくれている。
横浜動物の森公園への
アクセス 所在地: 〒241-0001横浜市旭区上白根町1145-1 TEL.045-959-1000 団体予約
TEL.045-959-1919 URL: http://www.city.yokohama.jp/
me/ygf/zoorasia/ 休園日:毎週火曜日、 祝日は開園し翌日休園 交通:相鉄線・鶴ヶ峰駅、三ツ境駅下車。JR横浜線・中山駅下車。各駅から「よこはま動物園行き」バス、終点下車。
自動車の場合は東名高速道路横浜町田ICから約15分。保土ヶ谷バイパス下川井ICから約5分。 駐車場(有料)1500台あり |
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 鮭の薫製や芋など、その土地の食物のレプリカや民具などをあちこちに配置して臨場感を出している |
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 【写真上左】本物に見える擬木・擬岩の技術はみごと(アマゾンの密林)【写真上右】アボリジニの砂絵をモチーフにした玉石舗装と風化した砂岩のアーチ(オセアニアの草原)
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 2003年4月にオープンしたアフリカの熱帯雨林ゾーンでは、珍獣オカピを間近に見ることができる |
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展示空間の構成:動物と観客を隔てる檻の代わりに「モート」と呼ばれる堀を設けている。「シェルター」は動物を間近に見られるだけでなく、絵画のように見せるフレーム効果もある。また裏手の獣舎は、観客から見えないように植栽などで隠し、臨場感を損ねないようにしている |
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環境演出:動物の生息環境だけでなく、その土地に住む人々の様子を表す「人文環境」の展示にも力を入れている。アマゾンセンターやジャングルインフォメーションなどの建物のほかに、各ゾーンに入るゲートや休憩所のデザインにも地域性を持たせている |
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 それぞれのコーナーにはキーパーと呼ばれる飼育スタッフがいて、動物の生態や楽しいエピソードを話してくれる。また、動物に詳しいガイドが見どころを案内するウォーキングツアーもある
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