情報誌「ネルシス」 vol.1 2000

P-23[CONCEPT MESSAGE]新世紀への提言 自然浴環境デザイン Nelsis
P-33[PROJECT FILE]住宅地防災公園 ―再生― 梅里公園/ほんとうの空がある道の駅をめざして 道の駅 安達〜智恵子の里〜
P27-32
東京都大田区の高級住宅街「久が原」に位置する集合住宅「ヒルズ久が原」。(株)長谷工コーポレーションの設計・施工。19,000m2の敷地に436戸が全3棟に配されたこの集合住宅は、再開発による建て替え事業の一環として取り組まれました。
敷地落差約10mという斜面に造成された住宅は新しい住居事情の様々な条件を充たすべく
設計されました。すなわち、プライバシー、安全性、日照問題、利便性そして住宅空間としての品格など、居住者の多極的メリットに総合的に対応した、良質な物件としての条件を十分に充たしています。
しかし、この空間の主目的は高品質な住空間の創造。つまり、都市の高級住宅街に位置するこの空間に、いかに自然環境を取り入れるかがメインテーマとされました。ヒルズ久が原の設計コンセプトの大きな役割を担うのは、「中庭」でした。敷地全体のほぼ中央に、3棟の建築に囲まれるように配置され、贅沢なスペースを利用してたたずまうこの中庭は、多種多様な樹木、池、せせらぎ、ジョキングコースを兼ねた散策路、四阿〈あずまや〉などによって構成されています。
水と風と緑―。
既存の池を中心に、周りをせせらぎがかすかな水音をたてて囲みます。深さ5cmほどのこのせせらぎは、夏には子どもたちの格好の水遊び場となります。池の中央には、噴水が常に清冽な水を噴き上げて、美しい憩いの空間を創り出しています。そして緑。既存の
水と緑の豊かな「中庭」の全景
樹木を最大限に生かし、敷地全体がこんもりとした森という印象を受けるほど、緑の空間は潤沢です。
年々都市周辺の気温が、人口集中によるエネルギー大量消費により上昇し続けています。
いわゆるヒートアイランド現象。地球温暖化を防止する上でも、対策が社会的重要課題になっている今日、このヒートアイランド現象を緩和するために、都市部の緑地保全と緑化推進、水辺の確保や
  雨水の地下浸透などの対策が効果があると提唱されています。
慌ただしく、無機質な都市の中にあって、この場所に満ち溢れた清涼感、静寂さ、心落ち着くやすらぎ感は、よけいに力強く、貴重な憩いの空間を創り出しています。
防護柵楽樹L型
防護柵TGI
メッシュフェンスHGA
アクセスを考慮した住宅側の舗装道。池周囲には防護柵〈TGI〉が安全のため設置されています 憩い空間の安全を確保する防護柵〈楽樹L型〉。木の素材は周辺環境になじみ、池を眺める人にもやさしい
池の縁には湿生植物が生息しています
せせらぎは、子どもたちの格好の遊び場所
ガーデンスペースを仕切る
フェンス〈HGA〉
敷地周囲の並木道
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町の歴史と文化を象徴した〈モニュメント〉。その周囲を〈ユニットレール4型〉と〈ベンチ〉が取り巻き、広場空間を構成しています
駅前広場は、地域の顔・玄関口として訪れる人を迎えます 
粉河町は和歌山県の北部に位置し、和歌山市と橋本市の中間にあって、紀ノ川の雄大な流れに抱かれた、人口約17,000人の町。西国三十三番札所のひとつとして知られる粉河寺の門前町として栄えた粉河町は、長い歴史と伝統に支えられた古き良き文化を持ち、日本のふるさととしての背景を十分に備えた由緒ある町でもあります。
日暮れとともにライトアップされる〈モニュメント〉。照明効果は空間の雰囲気づくりだけではなく、夜間利用者の安全性にも役立ちます

モニュメントのモチーフ
「粉河祭山車(だんじり)」
この町の繁栄の要は、地域の玄関口とも言うべき「駅」です。JR和歌山線の粉河駅はもともと北口のみが開かれていました。このたびの粉河駅南広場整備計画は、長い間、町民が待望した事業であり、粉河町の「顔」としての整備はもとより、観光客導入を強く目指したプロジェクトでした。地域住民の利便性とともに、伝統ある粉河町の歴史と文化を包括する、−この2つのテーマを両立させること。粉河駅南広場整備計画の基本コンセプトはここにあります。粉河町の古い伝統と文化、その一例を紹介します。

〈粉河寺〉
宝亀元年(770年)、大伴孔子古によって創建されました。以来、西国三十三番札所の三番目の寺として名を馳せ、大門をはじめ各堂の建造物としての美しさには定評があり、国の重要文化財に指定されています。

〈粉河祭〉
粉河寺産土神社の祭礼で、毎年7月に行われる紀州三大祭りのひとつ。中世荘園時代からの宮座による渡御式(とぎょしき)は、県無形民族文化財に指定されています。大門前から粉河駅までの約1キロには「山車」(だんじり)が並び、お囃子の音が独特の情緒と風情を醸し出します。

粉河町の歴史と文化は、駅前広場にそびえる粉河祭の山車をモチーフにしたモニュメントに象徴されています。日暮れとともにライトアップされるモニュメントのたたずまい、街路灯のアンティックなデザインやトイレの民家風な造り。地域の古き良き香りをただよわせる空間が成されています。ふるさと町づくりの一環として、粉河駅南広場は町民だけでなく、訪れた人たちのこころに生き続けます。
駅利用者を、雨に濡らす事なくバス乗場まで導く〈クレフヤード〉
北口連絡地下道から南広場へのアプローチ。地域性をただよわせる粉河祭の壁画が目をひきます

TOEXが当初に提案した
エクステリアプラン
クレフヤードFXA型
(間口拡大:特注)
ユニットレール4型 センタータイプ
モニュメント
オリジナルベンチ
粉河寺本堂
寺域は広く、情緒ある
参道はとても長い
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親水性の高い荒川水際の整備イメージ
車いすから可読性が良い高さに設置された案内板
中央入口に設置された〈ユニットレール1型 バイク進入防止ゲート〉は利用者の安全を確保しています
スロープに設置された〈オリジナルアルミ手すり〉は車いすの方でも利用できます
荒川へ降りるスロープ途中の休憩スペース。頬に風を感じながら、対岸の景色を望むことができます
建設省が実施している河川事業のなかで、治水と福祉とを兼ね備えた河川の環境づくりが全国で展開されている今日、荒川の川づくり計画もその一環として進められています。ここでは東京都と埼玉県をまたぐ荒川の岩淵地区のプロジェクトを紹介します。
首都圏を流れる荒川には、年間800万人もの人々が自然観察やスポーツなどを目的として訪れている、といわれています。特に平日には散歩を楽しむお年寄りや、リハビリテーションに訪れた身体に障害をもった人たちの姿が多く見うけられます。河川環境がこうした人たちを視野に入れた、福祉的整備の方向へと流れを向けていくことは必然です。
荒川・岩淵地区において、建設省荒川下流工事事務所が平成9年に沿川住民4000人を対象にしたアンケート調査を実施した結果、65歳以上の利用者が多い反面、荒川沿川にはお年寄りや身体に障害をもった
人たちが利用できる設備が不足していることが明らかになりました。
そこで病院関係者や福祉団体、老人クラブなどの協力を得て「福祉の荒川づくり懇談会」を発足させ、4回の討議と現地体験視察を通じて「仕組みづくり」「人づくり」「施設づくり」「雰囲気づくり」という4つのテーマを打ち出し、整備事業に反映させていきました。@緩やかな坂路と休憩スペース A車いす利用者もゆったりと乗降できる駐車場 B自転車やオートバイが散策路に進入しないためのゲート C車いすからでも可読性が高い、文字の大きな案内板 D障害をもった人が利用できるトイレ。そのほか坂路と歩道に広範囲にわたり手すりを設置するなど、人にやさしい川づくりは着実に進行していきました。
河川は昔から、人々の生活に不可欠な存在でした。物流、治水、文明や文化の重要な役割を担ってきました。そして21世紀を目前に迎えたいま、
土手へのアプローチは階段とスロープ。どちらにも2段ビームの手すりが設置されています 階段の利用が困難な人のためのスロープ
新河岸川側は、フラットに舗装された憩いの遊歩道が整備されています
※参考文献 『福祉の荒川づくり計画』 福祉の荒川づくり懇談会
河川環境における新しい領域が展開されようとしています。すべての人にやさしい川の流れ―これからの福祉を見据えたハードとソフトの見事な融合―そして人間と環境との新しい関係。
車いすの体験やトレーニング、介護の練習ができる「あらかわ福祉体験広場」を実施するなど、「福祉の荒川づくり」は福祉・医療関係やボランティアとの密接な連携をはかりながら、これからも「生きた場所」としての河川環境づくりを推進していきます。
ユニットレール1型 パターン1C
ユニットレール1型 バイク進入防止ゲート
オリジナルアルミ手すり


荒川側に設置された〈ユニットレール1型〉。この階段を利用したリハビリテーションに訪れる人も見うけられます
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