情報誌「ネルシス」 vol.2 2001

P-30 [シリーズ]自然浴環境 生き物が棲める川を取り戻そう…島谷幸宏
P-40 Project File ― プロジェクトファイル
P36-39
ALFACTOのベンチ 写真:Motohisa 0rihara
サッシや電化製品、家具、そして最近では建築の構造材や内外装材へも活用の幅が広がっているアルミニウム。リサイクルしやすく、省エネ・省資源に役立つ、次世代の金属素材としても大きな注目を集めています。宇宙空間から日常の生活空間まで、あらゆる場面で用いられるアルミニウムとは、どんな素材なのでしょう? その可能性について探ります。
 アルミニウム(以下、アルミ)の製造が工業化されたのは、今からほんの100年前のこと。原料が発見されたのは1821年の南フランス、その赤褐色の鉱石は土地の名をとって「ボーキサイト」と名付けられました。1850年にはフランスの皇帝、ナポレオン3世にアルミのメタルが献上され、55年のパリ博覧会では「粘土から得た銀」として出品されて大きな注目を浴びます。当時、アルミは金銀同様に珍重されていたのです。その後、大量生産の技術が開発されると、アルミは瞬く間に世界中に普及し、人々の生活に定着していきました。
 ところで、なぜアルミは近代に入るまで発見されず、用いられることがなかったのでしょうか? そのキーワードは「電気」。アルミはボーキサイトを精製したアルミナを電気分解することでつくり出される金属なのです。製造の過程では、膨大な電力が消費されます。
 アルミそのものは、地殻に含まれる元素としては酸素、ケイ素の次に多く、地球上で最も豊富な金属資源の一つといわれています。しかし産業革命によって電気が
発明され、電気分解の技術が開発されるまで、アルミという資源は静かに眠り続けていました。
 アルミの新地金生産国は主にアメリカ、ロシア、中国、カナダ、オーストラリア、以下、南米やヨーロッパの国々が並びます。日本では資源が全く採掘されないため、新地金や製品を外国から輸入し、加工を行っています。現在では、自動車や飛行機などの輸送機器を中心に、日本のアルミ消費量はアメリカ、中国に次いで世界第3位、新地金の非生産国としてはトップレベルです。



 アルミは従来の金属にない、非常にユニークな特性をたくさん持っています。

@リサイクルしやすい
 現在、日本で使われているアルミの約40%は再生アルミです。融点が低いアルミは、使用後の製品を簡単に溶かし、再生時には新地金をつくるときの約3%のエネルギーで、ほぼ同じ品質の地金を製造することができます。省資源・省エネ対策としての有効性はもちろん、新地金を製造できない日本にとっては、メリットの大きい金属素材といえるでしょう。

A軽くて強い
 鉄(7.8g/p3)や銅(8.9)に
比べると、アルミの比重は2.7、約1/3の軽さです。「柔らかくて弱い」イメージのあるアルミですが、比強度(単位重量当りの強度)が高くたわみが少ないので、輸送機器や建築物の構造材に多く使われています。現在では他の元素を添加したり、加工を施すことで、強さや耐食性を高めた合金が次々に誕生しています。鉄骨相当の強さを持つアルミニウム合金が建築構造材として使われつつあります。

B電気をよく通し、熱を伝える
 アルミの電気伝導率は、銅の約60%。しかし比重が約1/3なので、例えば同じ重さの送電線をつくった場合、アルミは銅の約2倍の電流を通すことができます。現在では送電線の約99%がアルミ。また鉄の約3倍という高い熱伝導率は、裏を返せば急速に冷えるということ。これを利用して、冷暖房機器やエンジン部品、各種の熱交換器、成形金型などにアルミが採用されています。

C加工性がよい
 融点が低く、湯流れのよいアルミは、薄いものや複雑な形状の鋳物をつくることができます。そして溶けても表面が酸化しやすいので大気中のガスを吸収せず、常に品質を一定に保つことができます。これはつまり大量生産であっても、ミリ単位の高い精度を実現できるということ。しかも軽量なので、
宇宙ステーションから住宅、アルミ飲料缶や生活用品、そしてカメラやコンピュータといった精密機器まで、ほとんどの分野を網羅できます。最近では接合や圧延、押出しなど、加工の技術は飛躍的に発展しています。また出来上がった製品をさらに加工したり、表面に細工を施すことも、アルミなら簡単にできるのです。

D酸化しやすく、耐食性がよい
 アルミは自然の状態でも、大気中の酸素をつかまえ酸化皮膜をつくって安定しようとする性質があります。従って、ほかの金属のように塗装などで保護しなくても、無垢のままで高い耐食性が得られ、アルミ独特の質感や美しさを楽しむことができます。日本で開発された「アルマイト加工」の技術は、この酸化しやすい性質を逆に利用したもの。電解液のなかでアルミを人工的に酸化させながら、同時に異なる物質でコーティングしたり、金属や染料で着色することで、用途と表現の幅をぐんと広げ、高耐久性能の材料として活用されています。



 こうして改めてアルミという素材を見直してみると、優れた科学的特性以外にユニークな側面があります。日本でアルミが大量に使用されたのは、戦後初の新貨幣と
なった1円玉(1955年)。そして日本人の住空間を変えたと評されるアルミサッシです(1958年)。そうして私たちは毎日あたりまえのようにアルミに触れ、暮らしてきました。鈍く柔らかい光沢、優しい触り心地、どこか素朴なこの金属は、私たち日本人が長い間、慣れ親しんできた木や紙といった伝統的な素材に通じる日常性、ニュートラルな魅力をすでに獲得しています。「ポピュラーであること」、このこともアルミならではの個性であり、最大の利点といえるでしょう。今後さらに、アルミの素材としての美しさを見い出すことができれば、新しい活用の展望が開けてくるに違いありません。
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写真:坂口裕康
アルミエコハウス。
所在地:茨城県つくば市立原2(財)ベターリビング筑波建築試験センター内。竣工:1999年9月。建築面積:92.16m2。構造:地上2階建てアルミニウム軸組構造。総括:(社)日本アルミニウム協会。コンセプト指導:伊藤豊雄建築設計事務所
アルミエコハウス設計/難波和彦(建築家)+界工作舎
 建築家・難波和彦さんが設計したアルミエコハウス(1999年9月末竣工)。この実験住宅は、通産省の外郭団体NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の平成10年度提案公募として、(社)日本アルミニウム協会が受託した『エコ素材住宅の技術開発』によってスタートした。「住宅にどこまでアルミを使えるか」をテーマに、アルミエコハウスでは構造から屋根、床、内外壁、階段から 家具にいたるまで、可能な限りアルミを用い、住宅性能と感性工学的な評価の両面から、機器による測定と居住実験が続けられている。
 「アルミの構造材はとにかく軽くて、想像以上に精度が高いのに驚いた。基礎を除けば、わずか6週間で上屋部分が立ち上がりましたから。都市住宅の場合など、工期の短縮に大きく貢献してくれそうだ」と難波さん。実験結果を
踏まえ昨年度にはアルミエコハウスの普及版の開発に取り組んだ。「一番の課題は、いかにして普及させるかである。普及版の仕様検討の成果を生かしてコスト低減をはかることが有効。さまざまな案を検討しているが、プラモデルや家具のような精度を生かして、たとえばインフィルだけをアルミとし、住人が自由に間取りを変えられるようなシステムを実現できればいいと思っている」。
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文/鈴木敏彦(建築家・デザイナー)
 軽量で分解・組立てが簡単で、自在に移動可能なアルミハニカム製(*1)のモバイル茶室。
 無機質なイメージのアルミが茶室に成りえたのはある素材の開発が決め手となった。手漉き和紙とハニカムコアを複合させた「和紙ハニカム」(*2)である。埼玉県東秩父村の紙漉き職人たちの手によって自然素材(こうぞ繊維)と工業化製品であるアルミハニカムとの融合を試みたもので、柔らかな光りの透過性と構造的面剛性を空気のような軽さのなかに兼ね備える。「これで茶の湯の空間に仕上げることができる!」。こんな絶叫とともにアルミの茶室の構想は具体化した。
 アルミの茶室は組み立てられるとその精神を京都今日庵(*3)に学ぶ2畳の空間となる。
右/茶室外観。キューブは炉壇の深さ分、30cm地盤面から持ち上げられている。また、茶室の組み立て時は、展開図の形状のように広げられロール状に巻かれて収納される。
左/内観。仕組まれた光源が呼吸するようにゆっくり明滅をくり返す。向板はアルミハニカムパネル、その上にすす竹の花入れ。炉縁は銅線の銀メッキ、なつめともに金子透作。
外観は2m×2m×2mのアルミのキューブが床より30cm浮いている。キューブの一面は1m×2mの穴あきハニカム(*4)2枚で構成される。内部は壁、天井が和紙ハニカム、床が縁なしの琉球表畳で構成された1.8m×1.8m×1.8mの入れ子のキューブ。内壁、天井面を60cm×60cmの和紙ハニカムが外壁のアルミハニカムパネルからドットポイント支持され、この内壁と外壁の間にプログラム制御調光照明が仕組まれる。すべての材料は基本的にM4のキャップ ボルト接合によって組み立てられ、また専用のキャリーバッグに収納されるため、分解、移動、組立てが容易である。
 昨年、表千家の最後のお許しをいただいた。宗名は宗敏。アルミの茶室は素庵と命名した。モバイルは宗敏好み。

*1 ハニカムとはアルミニウム箔などの薄いシート状素材を六角柱の集合体である蜂の巣形状に接着成形したもの。その特徴の最たるものはサンドイッチ構造用コア材として使用することにより軽量で
かつ高強度、高剛性の構造体が得られることである。
*2 繊維の強い和紙はハニカムコアをサンドイッチすることにより、自立するのに十分な剛性と平たん性を獲得するだけでなく、ハニカムコアの蜂の巣状のシルエットがにじみ出る独特な光の透過の効果と質感を生み出した。この素材は伝統的技術を基本とし丹念に手作りされる。
*3 今日庵は裏千家伝来の宋旦の二畳敷きの茶室。
*4 直径50mmの円形の穴を100mmピッチに開けた表面板によってサンドイッチしたハニカムパネル。透過性があるため半透明の光を演出する効果がある
文/東海林弘靖(照明デザイナー)
写真:金子敏男
 アルミニウムと照明器具は、実は蜜月の関係にあるのです。なぜなら、アルミは、比重が低く比熱も小さい、しかも金属のなかでは比較的柔らかな素材だからです。わかりやすくいえば、軽くて、放熱しやすく堅牢でありながら加工もしやすい材料だということです。だから、古くから照明器具の材料としてアルミは、よく使われてきたようです。
 最近、照明器具の素材としてアルミは本当に良く使われていることがわかります。大別して、照明器具に使われるアルミの加工法は、2通りあります。一つは、押出し成型と呼ばれるもの。これは、金太郎飴のように同じ断面をもつ長い製品をつくるものです。どこを切っても同じ寸法なので蛍光灯を
光源とした照明器具のボディとして使用されています。もう一つは、アルミダイカストとよばれる製法です。プリンをつくるときのように型をつくって、そこにドロドロに溶かしたアルミを流し込んで固めます。型のつくり方によって繊細なデザインを具現化することが可能です。照明器具は、熱を発することが多いのでボディに放熱のためのフィンを立てたり、ガラスを取り付けるための受け口のディテールを与えたりできるのです。この2つの方法は、ともに工業化しやすいので性能の高い照明器具を安価に量産することができます。しかし、アルミニウムという素材は、本来ある素材の持ち味、人に優しい温かみを持った金属という点に大きな魅力があると感じています。
コーンズ・アンド・カンパニー・リミテッド東京本社ショールーム。アルミ押出し材を使用した蛍光灯アッパーライト。照明器具は、ベルギーのMODULAR社製。建築設計:小沢明建築研究室。照明デザイン:LIGHTDESIGN INC.
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