情報誌「ネルシス」 vol.3 2002

P-02 [特集]環境再生への取り組み 21世紀のランドスケープ・エコロジー [環境再生への展望]新・生物多様性国家戦略と自然再生…鷲谷いづみ
P-12[OPINION]21世紀は生存と生活のための科学を…宇井純
P06-11
公害で緑を失い「生命なき惑星」のようだと形容されてきた足尾銅山。
そこでは長年の緑化事業と、近年それに合流したボランティア植林活動による森の再生の風景を見ることがきる。
文・写真…石井雅義
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土壌が酸性化し植物の
根付かない山肌で、
人々はほとんどゼロの状態から
膨大な労力を費やし
大地を人工化しながら自然を
再生させてゆく。
伏工。草の種を含ませたガーゼ状の
シートを山肌に敷き詰める緑化工法
植生袋筋工。土・肥料・草の種を詰めた
土嚢(植生袋)を等高線状に並べてゆく
初期の緑化工事では、荒廃地に耐える植物や
地中に窒素を固定するマメ科の植物が植えられるため、
現在の足尾の山々にはまるで異国のような
自然が広がっている。
その植物たちが耕した土壌にやがて人が新たな木を植え、
鳥が種を運び、長い長い歳月を経て
足尾本来の植生へと遷移してゆく。
その歳月は森の破壊に費やした時間とは比べようもない。
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2002年春の植樹会では650人のボランティアが、ミズナラやヤマザクラなどの約3000本の苗木を植えた
失われた緑への悲しみと、
それを少しでも取り戻せたらという
足尾に関わってきた人々に共通する
切実な願いが、
環境意識の高まる時代のなかで
徐々に一つに融合し、そして大きな力となった。
閉山し23年が経った1996年、
足尾銅山の公害問題を訴え続けてきた
いくつかの市民グループらが
「足尾に緑を。渡良瀬に清流を」
のかけ声のもとに結束し、ボランティアを集い、
禿山に木を植え始めた。
第1回植樹会には150人が参加。
初めての植樹で石ころばかりの荒廃した大地に驚き、
戸惑いと不安を覚えた
夏の手入れ。
亜硫酸ガスにより酸性化した土壌を
中和させるために石灰を撒く
下流の渡良瀬川遊水地からは
土壌再生に使うヨシが
持ち寄せられる
植林にはかつての足尾鉱毒により被害を被った
渡良瀬川下流域の住民らも数多く参加している。
上流の足尾に森を育てることは、下流域の自然再生にも繋がってゆくのだ。
上下流域の人々が公害による互いの
わだかまりを乗り越え、
再び川の繋がりのもとに集結し、森を育てる。
それは、世界的に環境の危機が叫ばれる現代のなかで、
常に公害の暗い歴史を背負ってきた足尾の禿山を、
市民らの力でより価値のあるものに
転換してゆこうとする新しい流れの始まりでもある。
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