情報誌「ネルシス」 vol.4 2003

P-18 [教わろう]「出前授業」でエネルギーの専門家に学ぶ
P-26 [体験しよう]人と自然との共生を試みるエコツーリズム
P22-25
【 写真左上】「4日平均の全球海面水温分布」環境観測技術衛星(ADEOS-II/AMSR)「みどりU」画像 (2003年1月28〜31日)
【写真左下】「アイスランド」 環境観測技術衛星(ADEOS-II/GLI)「みどりU」画像(2003年1月25日)
【写真右上】「みどりUがとらえた新緑の日本列島」 環境観測技術衛星(ADEOS-II)「みどりU」画像(2003年4月17日)

JAXA地球観測センターでは、
人工衛星のリモートセンシング技術でとらえた地球のさまざまな画像や観測データを専門家だけでなく一般にも提供している。
地球上の物質から反射、放射される電磁波をセンサーで捕らえた観測結果から、
これまで人間の目で見ることができなかったオゾンホールや地球温暖化現象、
海洋汚染や都市化のようすなどを知ることができる。
地球環境の解明に新たな発見をもたらす可能性が高いリモートセンシングにズームアップ。



写真提供……宇宙航空研究開発機構(JAXA)
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その日は朝からあいにくの雨だったが、埼玉県比企郡にある宇宙航空研究開発機構(JAXA)「地球観測センター(EOC)」の第1運用棟は家族連れでにぎわっていた。今日は年に2回ある観測センターの一般公開日で、人工衛星からのデータを受信・記録・保存する大型コンピュータなどの設備を見ることができる。ほかにも人工衛星の歴史やセンサーの解説、宇宙から見た地球の画像などがパネル展示され、パソコン体験コーナーでは、自分の住んでいる町の拡大画像や、人工衛星の発射シーンをCG動画で見ることができる。
 地球観測センターは1978年に設立され、地球観測衛星から送られてくる情報を4基の巨大な受信アンテナで毎日受信し、コンピュータによる画像処理を施して国内外のデータ利用者や研究者に提供している。これらの観測データは、環境保全、土地利用、海洋調査、資源調査、防災、農林業、漁業など、
広範な分野にわたって利用されている。
 通常、観測衛星は地上高度600〜900kmにあり、1日に地球を14回巡る。観測できる地上の範囲は幅80〜1600 km。衛星の寿命は3〜5年に設計されている。現在同センターでは、2002年12月14日に日本から打ち上げた環境観測技術衛星ADEOS-U(通称:みどりU)と、ヨーロッパのリモートセンシング衛星(ERS)など外国衛星からのデータを受信・処理している。
 ところで、リモートセンシングとはいったいどんなものなのだろうか。一般に、遠く離れたところから、対象物に直接触れずに大きさや形、性質を観測する技術のことをリモートセンシングという。ここでは、人工衛星にさまざまなセンサー(観測器)を載せ、離れたところから地球上の状態を観測する技術、ということになる。
 地上のあらゆる物質は、電磁波を受けると、物質の性質に応じて波長域ごとに固有の
「反射」の強さを示し、 物質が熱を帯びると固有の「放射」を示す。例えば、植物の種類や植物の生育状態、また水の濁り具合によっても「反射・放射」の強さが異なってくる。この特徴を把握することで、地球の状態を観測できるわけだ。
埼玉の地球観測センター内にある「地球観測展示室」は、いつでも見学することができる。地球観測画像ギャラリー(写真下)では、世界の川や山、海、遺跡などのデータを地球観測のパイオニアたちが画像処理した美しい画像の数々を見ることができる
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AMSR-Eがとらえたエルニーニョ。2002年11月(上)、2003年1月(中)、2003年3月(下)の観測値の平均的な気候からの水温の変化

「大気中に含まれる水蒸気の分布を測る」
環境観測技術衛星(ADEOS-II/AMSR)「みどりU」画像(2003年2月4日)

「各波長帯における植物、土、水の電磁波の反射と放射の強さ」
横軸が波長を表し、左側へいくほど波長は短く、右側へいくほど波長は長くなる。波長の長さに応じて呼び名(紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波など)が付けられている。各波長帯における反射・放射の強さが、物質の種類によって異なることがわかる
http://www.eoc.nasda.go.jp/experience/rm_kiso/mecha_howto.html

【画像解析例】オゾンホール:「みどり」が1996年9月に南極上空で観測したオゾンホールの解析画像
 次にセンサーについて解説しながら、観測衛星の主な役割を見てみよう。現在飛んでいる日本の環境観測技術衛星は「みどりU」で、そこには5つのセンサーが取り付けられている。最初の2つは、NASDAがつけたAMSR(高性能マイクロ波放射計)とGLI(グローバル・イメージャー)と呼ばれるもので、AMSRは地球表面から放射されるマイクロ波帯の電波を測定し、水蒸気量や降水、海上風速、海面水温や土壌水分など、水に関するさまざまな地球物理量を推定する。GLIは地球表面や雲からの太陽反射光・赤外線放射光を観測する光学センサーで、海洋植物プランクトンのクロロフィル濃度、海水中の溶存有機物、表面温度、植生分布、雪氷分布を測定する。これらのデータから炭素のグローバルな循環が把握でき、気候変動のさまざまな指標が観測できる。
 3つ目が環境省のILAS-U
(改良型大気周縁赤外分光計U型)。これは南北両半球高緯度地域の成層圏のオゾン層を監視・研究するための大気センサーで、フロンガスなどの影響で生じるオゾンホールなどの成層圏での現象を観測している。
 4つ目のSea Winds(海上風観測装置)は、NASA/JPL(米国航空宇宙局/ジェット推進研究所)がつけたマイクロ波の海面による散乱を受信・分析するセンサーで、海上風の風向、風速を測定することができる。そして5つ目は、仏国立宇宙研究センター(CNES)によって開発されたPOLDER(地表反射光観測装置)で、地球表面、エアロゾル、雲、海面で反射される太陽光の偏光、方向性、分光特性を測定する。
 これら5つのセンサーを搭載した日本の「みどりU」をはじめ、アメリカ、カナダ、フランス、インドなどの国が打ち上げている衛星から送られてくる
データを基に解析処理されたさまざまな画像やデータを私たちが利用できるようになっている。
 ところで、こうしたデータは実際どんなところで役立っているのだろうか。海岸線の変化や大規模な森林伐採の状況、また土地利用の変遷、オゾンホールなどの観測のほかに、火災や海上での油流出などの災害の状況把握、石油やプラチナ鉱脈の探査など資源探査や地質調査にも活用されている。また、海水温度がわかることから「暖流」と「寒流」のぶつかる場所が特定できるので、漁場を探すのにも役立っている。
 2004年夏に打ち上げが予定されている陸域観測技術衛星ALOSは比較的低い地上690kmを飛び、3つの望遠鏡でステレオ観測して、詳細な地形の情報を収集し精度の高い地図を作成するという。
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「灼熱の赤い大地オーストラリア」
環境観測技術衛星(ADEOS-II/GLI)「みどりU」画像(2003年2月6日)

【画像解析例】流氷:「みどりU」に搭載のマイクロ波放射計を用いて日本近海を2003年1月18日に観測した擬似カラー合成画像。本州以南の海域における薄い青色部分は水を多く含んだ雲に、オホーツク海に見られる薄い青色〜白色の部分は流氷に、それぞれ対応している
 「さらに今後は、GIS(地理情報システム)とリモートセンシング技術を組み合わせ、一般に情報公開するとともに、その土地の人から提供された情報も組み込んだオープンGISやデジタルアースと呼ばれる双方向型のインフォメーションシステムを構築し、情報の精度を高める方向に動いています」と話してくれたのは、地球観測利用研究センター(EORC)で主任研究員を務める五十嵐保さんだ。五十嵐さんは75年にNASDAに入社し、地球観測センターの設立に参加している。当時はアンテナが1基、解析装置が1台で、米国のランドサットからの衛星データを受信し解析していたという。現在は、「みどりU」のデータ解析の取りまとめをしている。「打ち上げから1年間は、さまざまなソフトを使ってちゃんと情報が得られるかどうかをチェックする時期です。 現在ウエブに公開されている「みどりU」の画像は試験的に出しているもので、 2003年の12月から本格的に情報を利用者へ提供していきます」。EORCのホームページに毎週掲載されている「トピックス」は、五十嵐さんのチームがつくっている。
 ホームページで検索可能なデータを見てみると、まずその美しさに驚かされる。地球そのものの美しさもさることながら、解析されたデータがわかりやすいよう色付けされているが、その色合いが素晴しい。例えば赤外線リモートセンシングで観測した「全球海洋の海面水温」の画像は、水温が温度によって7色に色分けされ、まるで虹がかかったような美しさだ。それの動画になると季節ごとの温度変化が数年にわたって表示され、その動きが地球の鼓動のように見えてくる。ぜひ一度ホームページにアクセスしていただきたい。
 「この仕事をしていて感じることは、グローバルに物事を見る必要性があるということです。エルニーニョ現象は、
貿易風が弱まることで、南米ペルー沖の海面水温が上がり日本が冷夏になり、インドネシアが乾燥して火事が発生するという大きなメカニズムで、そのことがわかってきたのはここ数年です。定量的、客観的に環境を把握するためには、同じセンサーで地球全体のデータを収集していくという地道な作業が必要なのです」と五十嵐さんは語る。
 衛星からの画像情報は、これまで目にすることがなかった地球の新たな表情を連続して私たちに伝えてくれる。地球環境の理解を助けるこれらの画像を頻繁に眺めてみよう。「地球規模」という感覚がもっと身近になってくるにちがいない。



地球観測利用研究センター(衛星データ利用研究についてはホームページを)URL:
http://www.eorc.nasda.go.jp

地球観測センター(地球観測展示室見学、施設一般公開、受信・処理・提供についてはホームページを)
TEL.049-298-1200
FAX.049-296-0217
URL:http://www.eoc.nasda.go.jp
所在地:埼玉県比企郡鳩山町大字大橋字沼ノ上1401/交通:東武東上線高坂駅西口よりバス/地球観測展示室の休館日:年末、年始/見学時間:10:00〜16:30

*宇宙開発事業団は2003年10月1日から、宇宙科学研究所と航空宇宙技術研究所とともに、宇宙航空研究開発機構に変わります

衛星画像へのアクセス
●地球観測利用研究センターの画像は、EORCのホームページ
http://www.eorc.nasda.go.jp/index_j.htmから検索できる。画面のトップには、最新の「みどりU」の画像が「今日の一枚」(みどりUより)、トピックスなどで紹介されている。

●宇宙開発事業団のホームページには画像のライブラリーがあり、ムービーや約4000枚の衛星画像を見ることができる。http://www.nasda.go.jp/

●地球観測センターで受信したデータや画像処理を行った衛星画像はホームページhttp://www.eoc.nasda.go.jp/の「注目ページ」で見ることができる。
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