情報誌「ネルシス」 vol.4 2003

P-22 [活用しよう]宇宙からの画像で地球環境を学ぶ――リモートセンシングで観測する
P-30 がんばる自治体のまちづくり奮闘記1 島根県隠岐郡海士町/役場は商社だ!まちの顔づくり、産業づくりに奮闘する若手リーダーたち
P26-29
2002年は国連による国際エコツーリズム年だったこともあり、今年に入ってから日本国内でもエコツアーが目立って盛んになってきた。
すべて用意された便利な旅に慣れてしまった私たちだが、少しいつもと勝手が違っても、そこにあるがままの自然と人々の暮らしを受け入れる体験は思いがけず新鮮で楽しい思い出になるに違いない。
そして、そこにある風景を守ることの大切さに気づくはずだ。
沖縄県で最も南西に位置する西表島は国内でエコツーリズムを先駆けて行った地域の一つ。イリオモテヤマネコの生息地としても有名であり、豊かな自然を生かし、さまざまなエコツアーを実践している【写真上】浦内川上流にあるマリウドの滝。付近にある展望台から見下ろすだけでなく、滝のすぐ側まで近づける【写真右】島で最大の浦内川。両岸にはマングローブが生い茂る。カヌーやトレッキングで巡るツアーを行っている。●西表島に関するエコツーリズムについての問い合わせ先:西表島エコツーリズム協会事務局(TEL.09808-5-6331 
URL: http://www.chiiki- dukuri-hyakka.or.jp/ book/jirei2001/
81nisiomote/8106.htm

(写真提供:財団法人 沖縄観光コンベンションビューロー)
環境に対する人々の関心が高まるなか、さまざまな分野で地球環境に注目した商品やプロジェクトが開発されている。旅行業界もその例外ではなく、従来のレジャー的要素の強いマスツアーとは内容が異なり、これまであまり見られなかった、自然環境を体験することに重点を置いたエコツアーが増えてきている。
 エコツアー自体は旅行という行為だが、その背景には「自然を生かし、また継続していくためにそこに暮らす人々が観光環境を整え、その結果、地域経済を活性化させる」という概念があり、それが「エコツーリズム」と呼ばれるものである。
 エコツーリズムのそもそもの始まりは、1980年に国際自然保護連合(IUCN)、世界自然保護基金(WWF)、国連環境会議(UNEP)が中心となって発表した「世界環境保全戦略」のなかで、継続的開発の理念を提唱したことからだといわれている。日本国内では89年に発足した「小笠原ホエール・ウォッチング協会」を皮切りに、90年には当時の環境庁が国内エコツーリズム推進方策検討調査を
開始し、徐々にエコツーリズムが盛んになっていく。さらに、96年には西表島で民間初のエコツーリズム協会が、98年には旅行業界や学識経験者、国・地方自治体などによって「日本エコツーリズム推進協議会」が発足した。日本エコツーリズム推進協議会はその後、「日本エコツーリズム協会」と改名し、今年2月にはNPO法人となり、エコツーリズムを全国レベルで浸透させるべく積極的に活動している。
 そもそもエコツーリズムとは何を指していうのだろうか。日本エコツーリズム協会の小宮充博さんに聞いてみた。「エコツーリズムの定義については、国々や地域、また提唱者によっても多少のばらつきがあります。概して“自然をベースとし、教育的要素があり、持続可能となるような環境への配慮がなされていること”にポイントを置き、さらに日本では旅行業界の動きが加わって展開されています。エコツーリズムが、単なる自然を観賞するための観光旅行と大きく異なる点は、自然環境保護の一翼を担うことと、直接的にしろ間接的にしろ、その地域に
経済効果があるかどうか、ということです」
 この定義を踏まえ、国内のエコツーリズムは大きく2つのスタイルに分けられるようである。一つは小笠原や石垣島、屋久島など最初から自然資源が豊富にある場合の「自然破壊回避型」。もう一つは、川や山、自然公園など部分的にある自然や地域文化を目玉にした「まちおこし型」だ。今のところエコツーリズムについては統一した規制はなくそれぞれの地域の任意で行われており、その内容や質はまちまちだ。そこで、日本エコツーリズム協会ではセミナーや講演会などを開き、その土地に参考になる情報提供を行っている。「環境教育系や旅行業など各専門分野の会員がいますので、地域に合わせてセミナーを行っています。最終的には、実践していく地元の人たちが主体となるように促していきます。最近、特にエコツーリズムに力を入れている地域が多く、各地で自主的に自然学校を開き、一定の水準を保つための人材育成プログラムに取り組んでいるところもあります」と小宮さん。
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「地域の自然・歴史・文化資源の保護」「地域固有の資源を生かした観光の成立」「地域経済の活性化」の3つの目的をいずれも成立させることが、エコツーリズムの目指すところ。三者間の距離を縮めるにつれ、エコツーリズムはその地域の地場産業として定着していくであろう

1 資源管理のための調査研究 2 施設&観光資源に関する情報の提供 3 サイトの環境の情報提供 4 ガイドラインの設定など 5 現地体験の提供

(出典:エコツーリズム推進協議会発行「エコツーリズムの世紀へ」/図2 点とも)
宮城県気仙沼市大島では島ならではの体験メニューを用意している。写真は田中浜・小田の浜地での地引き網体験。地元の漁師が手ほどきしてくれる。
●問い合わせ先:大島体験予約センター(TEL.0226-28-3000
URL:http://www.k-macs.ne.jp/~oshimahp/
 実際にエコツアーに参加した人は、自然のなかを歩くことが意外と大変であることに戸惑うようだが、それ以上に、日常ではまず見ることのできない動植物に生で触れられることに素直に感動するようだ。体一つで自然のなかに飛び込み、全身で感じる。これまで経験したことがなかった雄大で神秘的な自然の姿に魅せられ、再びその地を訪れたいと思う参加者は多い。
 いずれにせよ、エコツーリズムを楽しむには専門の知識を持ったガイドの存在が欠かせない。ガイドもしくはインタープリターと呼ばれる案内人は、エコツアーで外部から来た人たちに、生態系や見るためのノウハウを
伝えるといった役目を担っている。専門の知識を持った人に案内されれば、してはいけない行為を知ることができ、むやみに自然を乱す行為も減る。また、雄大な風景や珍しい動植物についても、その場で知りたい情報が得られ、参加者の満足度も上がり内容の高いツアーが実現できることになる。
 自然界に人が踏み入ること自体、破壊行為ではないのか、という声もあるが、秩序あるツアーを行い自然に対する負荷を少しでも軽くしようと試みているところにエコツーリズムの意義がある。また、今ある自然を持続させることは、人々の生活を持続させることにもつながる。
観光のために異質なものをつくるのではなく、自然とそこに暮らす人々の生活環境に触れる旅。エコツーリズムの強みはそこでしか体験できない「本物」というものなのではないだろうか。そして、その本物を求める人たちが確実に増えていることは確かだ。



日本エコツーリズム協会事務局
〒162-0801 東京都新宿区山吹町366福島第2ビル402号
TEL.03-3269-8861 FAX.03-3269-8862
URL:http://www.ecotourism.gr.jp E-mail:ecojapan@alles.or.jp
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自然遺産として世界遺産に登録された地域では、さまざまなエコツアーを実践している【写真1、2】世界遺産登録地域から20kmほど南の白神山中に位置する鰺ヶ沢町の「ミニ白神」と呼ばれる地域は、約52haという広大さで白神山地核心部同様の森林景観を保つため、ブナ原生林散策ゾーンとして人気。樹齢200年のブナやミズナラに触れられる【写真3】津軽森から世界遺産地域を望む。津軽森は白神山地トレッキングのコースの一つ【写真4】ヤクスギで有名な屋久島は、海に囲まれ山があり川もある、と自然が豊富。地元のエコツアー会社、屋久島野外活動総合センターではそんな屋久島に深く触れるツアーを行っている。荒川原生林の中にある屋久杉ランドは巨木が林立するヤクスギの森【写真5】苔むした美しい森が楽しめる白谷雲水峡。照葉樹、ヤクスギのほかヤクシカが見られることもある。●問い合わせ先・写真提供:青森県鰺ヶ沢町役場 企画課企画係(TEL.0173-72-2111 URL:http://www.ajigasawa.net.pref.aomori.jp/)、屋久島野外活動総合センター(TEL.0997-42-0945 URL:http://www.ynac.com/
エコツアー専門旅行会社
株式会社
風の旅行社・
風カルチャークラブ
〒165-0026東京都中野区新井2-30-4IFOビル6F
TEL.03-3228-1065 FAX.03-3228-5174
URL:http://www.kaze-culture.com
「自然」をテーマに、その分野に絞った“専門店”を目指している。さらにネイチャリングだけでなく、農業から暮らしや民俗に及ぶ自然との接点を取り上げたプログラムを得意とする現地主義と実践型ツアー。プログラムには必ず専門家が同行する。
アミューズトラベル
株式会社
〒160-0023東京都新宿区西新宿1-22-2 新宿サンエービルB1
TEL.03-5325-1256 FAX.03-5325-1258
URL:http://www.amuse-travel.co.jp
現地に精通したガイドが同行するバードウォッチングや自然観察ツアーで、エコツアーの実践に取り組んでいる。また登山ツアーには認定を受けた山岳ガイドが同行して安全登山に努めている。日帰りから海外までバラエティ豊富なツアーを提供している。
新和ツーリスト
株式会社
〒136-0071東京都江東区亀戸1-5-7日鐵NDタワー6F
TEL.03-5627-7731 FAX.03-5627-7719
E-mail:
shinwatourist.ssc@shinwaship.co.jp
世界を舞台に、野生の花・ 鳥の観察を軸にしたツアーを年間約100本企画し催行している。各ツアーには花や鳥に詳しい写真家や専門家らが同行し、自然の楽しみ方を紹介・指導する。中国やヒマラヤの青いケシ、渡り鳥を狙ったツアーなどが人気。
株式会社道祖神 〒108-0014東京都港区芝5-13-18 MTCビル9F
TEL.03-3455-6111 FAX.03-3455-2442
URL:http://www.dososhin.com
アフリカ専門の旅行会社として26年の歴史を持つ。単なるサファリや観光ツアーではなく、より深くアフリカの自然、人々の生活、文化を理解するためのツアーづくりをしている。最近はアジアや中南米地域でも自然に親しめるツアーを展開している。
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