情報誌「ネルシス」 vol.4 2003

P-30 がんばる自治体のまちづくり奮闘記1 島根県隠岐郡海士町/役場は商社だ!まちの顔づくり、産業づくりに奮闘する若手リーダーたち
P-42 東洋エクステリア30周年記念インタビュー 前進し続ける環境事業
P36-41
◎66プラザ
巨大な蜘蛛の彫刻がランドマークになっている66プラザ。広場を囲むようにしつらえられたガラスの壁泉が都市的な雰囲気をつくり、そこを流れる水音がさわやかな空間を演出している。また植栽帯のエッジを利用した長いベンチが、ゆったりとくつろげる場所を提供し、六本木ヒルズの玄関口となっている。
2003年4月25日、六本木6丁目にオープンした「六本木ヒルズ」は地区面積約11.6haを有する国内最大級の再開発事業で、オープン後2カ月で1000万人を超える人々がここを訪れたという。
商業施設、オフィス、ホテル、住宅、シネマコンプレックス、展望台、日本庭園などこれまでにない密度と風格を持ったコンプレックスタウンのランドスケープは多様な表情を見せている。
建物を高層化することで、低層部に広いオープンスペースを確保し庭園や広場、散策路をふんだんに取り入れている。
オープンスペースは敷地全体の50%もあり、緑被率は20%ときわめて高い水準になっている。
今回は「垂直庭園都市」を標榜した六本木ヒルズのランドスケープデザインを紹介する。


彫刻:ルイーズ・ブルジョワ作
「ママン」 蜘蛛の体内には大理石でできた卵が入っている

 ガラスの壁泉は季節風を 防ぐ
 役目も果たしている
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P38
二つの魅力

これまで都市の魅力として東京にはないものが二つあった。
 その第一は「文化的誘惑の魅力」である。薫り高い都市文化が人々を誘惑し、分野を超えた出会いと多様な活動を創造する魅力である。それはパリやニューヨーク、今再開発の真っ只中にあるベルリンにも共通しているものである。
そこには働く場所以外に美術館やアート、ファッション情報や住まい、遊びの空間が集まり、デジタルな文化創造の息吹と出会える都市構造がある。邂逅が人々を新たな試みに誘う仕掛けが用意されているのだ。
 第二は、「内省的な空間がもつ魅力」である。都市のなかで、人工的な自然ではなく人の心と身体を包み込む豊かな緑があり、蓄積された
時間の厚みが人に自分の時間を発見させてくれる場所である。 それには人の心を揺り動かす物語のある自然環境が用意されなければならない。「文化都心」と「垂直庭園都市」という二つのコンセプトはそこから生まれた。六本木ヒルズのランドスケープデザインは、これまでの東京にはなかったこれら二つの魅力を重ね合わせることを目指したものである。
六本木ヒルズ実現への
プロセス


立体回遊できる緑豊かな森をもつ都市。それが文化都心・垂直庭園都市の具体的空間イメージである。これを実現するためのデザインプロセスの特徴は、各分野にディレクター方式が採用されたことである。ランドスケープデザインは佐々木が担当し、建築、アート、照明などほかのディレクターとの調整役を果した。ここで私たちが提案した主要なデザインの考え方は次の2点である。

1.単眼から複眼思考へ

すべての空間が複合している六本木ヒルズは、各デザイン領域の境界を超えた思考が必要であった。このため、建築の内外部、道路や屋上空間は、従来の建築や土木、アートの領域を超えて「人と自然のかかわり」を手がかりとした新しい広場や庭に転換することを
目指した。環状3号線上にガラスの滝と回廊をもつ「66プラザ」。建築の入り隅、出隅を活用した渦巻き型楕円形状の「六本木ヒルズアリーナ」。斜面に色鮮やかなアートを組み込んだ遊び場「さくら坂公園」。高層ビルの耐震構造を生かした「水田のある屋上庭園(けやき坂コンプレックス)」。勾配の強い幹線道路歩道に、楽しく座れるストリートファニチャーが並ぶ「六本木けやき坂通り」。立体歩道上の「ブドウ棚」。夜は光の海に変わる「パティオ」など、そのすべてが照明やアート、さらに建築、土木技術を複合させた複眼的思考からのデザインである。

2.共有空間のある街へ

共有空間とは、街路のような公共空間と、店舗、住宅、事務所ビルという私的空間とが互いに領域を隔離せずに、重なりあって利用できる中間領域を意味している。ペダーセン、コンラン、ジャーディ事務所、
槇事務所など、多大な力を持つ建築家との徹底的な討論と協調のエネルギーを、私たちはこの共有空間としてのランドスケープデザインに結実させた。六本木ヒルズは、1階店舗のみならず、プライバシーを必要とする建築空間以外は、すべて建築とオープンスペースが入れ子模様のように共有空間でつながる仕組みとなっている。建築に入ったかと思えば広場が突然現れる。広場は階段から路地広場につながる。この街には裏側がない。すべての場所に名称を付け、一人であっても、複数でも楽しめる物語のある道や広場、庭としてデザインしたからだ。ここで試みた共有空間は機能上、見えにくい。しかし、特定利用の人だけにではなく、すべての人に役立つ空間創造は、今後この仕組みから生まれるにちがいない。
 連日多くの人でにぎわう六本木ヒルズには、多くのデザイン上の回答が用意されている。

【設計データ】
所在地:東京都港区六本木6丁目(地下鉄日比谷線六本木駅すぐ)
建主:六本木六丁目地区市街地再開発組合、森ビル

[外構・ランドスケープ計画]
●設計・監理:森ビル
●デザイナー
全体コンサル:鳳コンサルタント環境デザイン研究所 /毛利庭園:ランドアート /六本木ヒルズレジデンス屋上庭園、ゲートタワー屋上庭園:コンラン&パートナーズ+ダン・ピアソン
照明:ライティング・プランナーズ・アソシエーツ(全体)、内原智史デザイン事務所(毛利庭園、六本木ヒルズアリーナ)
サイン:サスマン/プレジャ、黎デザイン総合計画研究所

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P39

水田や植栽への灌水は、屋上に降った雨をいったん貯留し、それを再利用している。「農」の環境は、自然素材で構成され多孔質であるため、多様な生き物のビオトープとなる
(写真提供:六本木ヒルズ運営本部タウンマネジメント室広報)

◎けやき坂コンプレックス屋上庭園
六本木ヒルズのほぼ中央に位置するけやき坂コンプレックスの屋上につくられた庭園は「四季の庭」がテーマとなっている。隣接する六本木ヒルズ内の建物から見下ろせるこの庭は、地上45m、面積は約1300m2で、池やサクラ並木のほかに、水田や畑のある「農の風景」を併せ持ち、都会のなかにのどかな景色をつくり出している。
 この屋上庭園には最新のテクノロジー、屋上緑化と耐震性向上を両立させる新型制振構造「グリーンマスダンパー構造」が採用されている。建物本体と重い頂部である屋上緑化部分を絶縁させ、間に積層ゴムと制振ダンパーをかませて、地震エネルギーを吸収させるというもの。この構造のおかげで、屋上は客土平均1m、庭園総重量3650トンを可能にした(森ビルと山下設計による共同開発で特許出願中)。
 通常、この屋上庭園は公開されていないが、六本木ヒルズツアーの「ウォーキングコース」(有料)に申し込めば、見学することができる。
六本木ヒルズツアー運営室 TEL.03-6406-6677
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P40
◎レジデンス棟周り
英国で人気のガーデンデザイナー、ダン・ピアソンによるレジデンスの屋上庭園は英国の田園風景をテーマにしている。生垣や草地、小さな森や緩やかなカーブが、点在する庭をまとめている。大きな曲線状のデッキや池、丸窓のある壁泉の彫刻的なしつらえが、都市と住宅エリアをさりげなく融合させている。
 けやき坂コンプレックスとレジデンス棟を結ぶコンコースにはブドウ棚が設けられ、オープンエアのレストランが並ぶ空間に自然につなげている。
◎さくら坂公園
チェ・ジョンファ作のロボットのタワー「See You(じゃあまたね)」が目印のさくら坂公園は、子どもたちに人気。斜面を生かした長い滑り台や芝生の法面が、さくら坂の通りから見ても楽しい公園になっている。
◎ストリート空間
六本木けやき坂通りにはみごとなケヤキが50本余り列植され、緩やかなカーブが並木の美しさを引き立てている。通りに置かれたストリートファニチャーはインテリアデザイナー、内田繁氏のプロデュースによるもので、世界を代表する11人のアーティストがデザインしている。
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◎毛利庭園

毛利庭園はその名からもうかがい知れるように、もとは江戸時代、長府毛利家の麻布日ヶ窪邸の一部であった。明治に入り中央大学の創始者である増島六一郎氏がこの池を入手し、庭園を「芳暉園(ほうきえん)」と名付ける。戦後、ニッカウヰスキー株式会社のものとなり、池の周辺に桜を植え、その後、昭和52年にテレビ朝日が取得したという歴史がある。
 現在の庭園は、旧跡にも指定されている「毛利甲斐守庭跡」「乃木大将誕生地」を再開発事業によって埋土保存し、その上に新しく作庭された日本庭園である。
 作庭にあたっては、既存の地形を生かし、サクラ、クス、エノキなどの既存木や、場内移植したイチョウが風格のある景観をつくり出している。大きな池を中心に回遊性のある庭は、春はサクラ、秋はカエデと季節の変化を楽しむことができる。また、滝や渓流部分にはヤマモミジ、ウリハカエデ、ハウチワカエデ、ナナカマドなどが植えられ、深山幽谷の趣を出している。
 六本木ヒルズで見られる
 東洋エクステリア製品


 【写真左】柵:楽樹L型
 【写真中央】柵:GI
 【写真右】柵:GI
 手すり:サポートレール1型
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