情報誌「ネルシス」 vol.5 2004

P-22 アートシティ・ベルリン…シヲバラタク
P-30 がんばる自治体のまちづくり奮闘記2 岩手県西磐井郡平泉町/子孫に誇れる町をつくろう! 世界遺産登録を目指し新たなまちづくりに挑戦する
P26-29
文……岡井有佳
左派であるベルトラン・ドラノエ(Bertrand DELANOE)がパリ市長に就任した2001年3月以来、パリ市ではさまざまな変化が起こっている。バスの定時運行を実施するためのバス・タクシー専用路線の整備、クリーンなイメージを与えるための犬の排泄物処理の徹底など、市民生活を快適にする政策のほか、さまざまなイベントも行われている。その一つに、Nuit Blanche(ヌイ・ブランシュ。「nuit」は夜、「blanche」は白の意味)、「白夜」がある。
 「白夜」は、「普段は芸術に触れる機会の少ない人も含めて、
すべての人に芸術に触れてもらいたい」というドラノエ市長の想いから企画されたアートイベントで、10月上旬の土曜の夜から日曜の朝にかけて、パリ中のモニュメントを使って街全体を現代アートの作品に仕立てあげるという試みである。
 2002年に行われた第1回は、パリ市庁舎などの建物がライトアップされ、国立図書館の壁面を大画面として映像が映し出された以外は、区役所などで古い映画が無料で上映されたり、ルーブル美術館やエッフェル塔、カタコンベ(昔の墓場)といった通常の観光施設やプールなど市の施設が朝まで
無料で開放されるといった内容で、アートイベントというよりはむしろパリの夜を満喫するためのイベントという要素が強かった。にもかかわらず、当初の予想よりも大勢の人がパリの夜に繰り出し、どの施設も長蛇の列となった。2、3時間待つことは当たり前で、どこにも入れなかった人も多かった。その反省から、2003年はより多くの人が楽しめるように、オープンな広い場所で開催することが試みられるとともに、企画内容もより芸術的なものとなった。
サンマルタン運河のライトアップSophie ROBICHON/Mairie de Paris 
パリ市庁舎中庭のライトアップSophie ROBICHON/Mairie de Paris 
ポンヌフ門のライトアップSophie ROBICHON/Mairie de Paris 
田原桂一による証券取引所の演出Harumi TOMIBAYASHI
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レ・アールの愛の庭Sophie ROBICHON/Mairie de Paris 
国立図書館の風船の演出Arnaud TERRIER/Mairie de Paris 
パリ市庁舎外観の演出Arnaud TERRIER/Mairie de Paris 
開放されたパリ市営プールSophie ROBICHON/Mairie de Paris 
開放されたパリ市営プールRoxane NEVEU/Mairie de Paris 
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 今回紹介する第2回の「白夜」は、2003年10月4日の夜8時から5日の朝7時にわたり、パリ市を6つの地区、右岸中央地区、左岸中央地区、東地区、西地区、北地区、南地区に分け、総計101カ所で催された。そして今回は6人のアーティスト、アミ・バラク(Ami BARAK)、ピエール・ボンジョヴァンニィ(Pierre BONGIOVANNI)、カミーユ・モリノー(Camille MORINEAU)、スザンヌ・パジェ(Suzanne PAGE)、ロバート・フレック(Robert FLECK)、ジェラール・パケ(Gerard PAQUET)によって各地区のイベントをコーディネートしてもらう方法が採られた。
 右岸中央地区においては、パリ市庁舎がジルベール・モアティ
(James TURRELL)は、現在開発中の「左岸(Rive Gauche)」に建設されたCDC(預金供託金庫)新社屋のガラスの壁面を利用し、光のイルミネーションを実現させた。
 西地区の近代美術館においては、ベルトラン・ラヴィエ(Bertrand LAVIER)が香水を用いた「におい」のパフォーマンスを行った。ダグラス・ゴードン(Douglas GORDON)は近代美術館に至る経路のあちこちに「声明(Statement)」というタイトルで「この言葉を読んだ瞬間から、あなたが緑色の目をした誰かに出会うまで」という文を書き込み、思考よりはむしろ想像を誘発することを試みた。
 そのほか、エッフェル塔など各種モニュメントはいうまでもなく、サンマルタン運河に至るまでライト
(Gilbert MOITY)によって見事にライトアップされ、市庁舎内ではワインなどの飲み物や生ハムなどを準備して人々の来訪を歓迎していた。パリ市信用金庫ではミッシェル・ヴェルジュ(Michel VERJUX)によって7つのプロジェクターを用いた光の映像が映し出された。また、証券取引所では日本人写真家の田原桂一による光を使った演出が行われて、多くの人を惹きつけていた。
 左岸中央地区においては、アンジュ・レチア(Ange LECCIA)がオーストリッツ陸橋を使って幻想的な光の演出を試みた。東地区にある国立図書館では、ジャン・コップ(Jan KOPP)がヘリウムでふくらませた直径7mの風船を用いて光の演出をし、ジェイムス・タレル
アップされた。ルーブル美術館ではスペクタクルが行われ、劇場では芝居を上演、コンサートホールはもちろん、音楽大学、区役所、教会など至るところでコンサートが開かれた。さらにギャラリー、デパート、本屋などでは各種展示が行われるなど、どこも大勢の人でにぎわった。
 パリ市庁舎前広場には、1800m2のテントを張り、プログラムや見どころを案内するインフォメーションセンターが設置された。そこでは、飲み物とともに、日曜の朝には、パン職人会議所からクロワッサンなど2万個のパンが配られ、一晩中イベントを楽しんでおなかをすかせた人々の胃袋を満足させていた。
 協賛企業の協力も、これらの
夏の1カ月間、バカンスに行けなかった人にもリゾート気分を味わってもらおうと、セーヌ川に砂浜を出現させる「パリの砂浜(Paris Plage)」というイベントも行っており、こちらも、パリっ子だけでなく旅行者をも惹きつけるイベントとなっている
イベントを支えるために欠かせなかった。フランステレコムは自転車で夜のパリを散策するガイドツアーを企画、パリ市交通営団(RATP)は無償で自転車を貸し出した。また土曜の夜8時から日曜の朝8時まで、パリ市内の自宅からフランス本土への電話料金が無料になったほか、携帯電話用のプリペイドカードも無料配布された。
 公共交通機関についても、メトロやバスの一部を夜じゅう運行。さらに各主要会場間を結ぶ無料のナイトバスを走らせ、パリっ子の足を確保していた。
 このように100万人を超える参加で大盛況のうちに終わった「白夜」は、パリだけでなくブリュッセルやローマにも波及し、この年に同様のイベントが開催されている。次第にヨーロッパ規模のイベントになりつつある「白夜」が、今後どのように発展していくか非常に楽しみである。
フランス大通りのイベントArnaud TERRIER/Mairie de Paris 
レ・アールSophie ROBICHON/Mairie de Paris 
ブールデル美術館Roxane NEVEU/Mairie de Paris 
パリ市庁舎中庭Sophie ROBICHON/Mairie de Paris
2003年アートイベント「白夜」の公式カタログ
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