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世界遺産登録に向けた新たなまちづくりに町民は活気づいた。 しかし、そこにはクリアしなければならない多くの問題が待ち構えていた。「世界遺産登録への最大の条件となるのは、未来にわたって世界遺産の景観を維持できる環境整備」が問われる。
「世界遺産となれば、住民の生活に多くの負担がかかることになる。そのコンセンサスが最も心苦しく、大変な問題だった」と千葉和男町長は語る。世界遺産に登録されると、直接指定対象となる文化遺産を厳格に保護するためのコアゾーンと、その周辺に設けられる利用制限区域となるバッファゾーンが指定される。特にコアゾーンに指定された地区では、史跡を維持管理していくために大きな制限が加えられるのだ。
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コアゾーン確定への 住民の理解 意外な展開を見せた景観条例 |
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なかでも、藤原秀衡が平和の理念で造営した無量光院跡のコアゾーン追加の住民コンセンサスが問題だった。2000年12月の世界文化遺産登録指導委員会で、専門家から追加指定の必要性が指摘 |
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されたことを受けて町が取り組んできたものだ。 ほかのコアゾーンとの最大の違いは、追加指定地内に多くの住宅が集中していたことだ。史跡のためとはいえ、そこで暮らす住民に大きな負担を強いることになる。発掘調査も必要で、その後は柳之御所遺跡を合わせた一帯を史跡公園として整備していく予定だ。世界遺産登録までに、観光客の導線の基点となるバイパス沿いの「道の駅」と一体化した施設の整備も急がなければならない。
史跡公園の中に住居を構える大変さは想像以上のものである。また、ほかの住民の要望として、北上川堤防工事と一体となったバイパスの建設に反対する声もあがった。遺跡の発掘・復元はいいが、平泉の誇る北上川を望む景観を壊したくないという地元へのこだわりがあった。北上川は荒れる河川だ。これまでにも多くの水害をもたらしている。それでもなお、自然のままに残したいという要望が強いのは、高館からの眺望を愛してやまない町民が多いからである。
無量光院跡の遺跡全体を史跡指定して守るという重要性は、長い時間をかけ住民に理解してもらった。堤防・バイパス工事は、 |
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バイパスを堤防内側の低いゾーンの、できるだけ景観を邪魔しない位置に設定し、堤防の緑化を行って現状にできるだけ近い形に戻すことで町民のコンセンサスを得ることができた。最終的なコアゾーンの確定に向けて、無量光院跡周辺は2004年5月、文化審議会で史跡の追加指定の答申を受け、世界遺産登録に向けて大きな壁を乗り越えることができたのである。
また、景観保護のため、平泉町では全国に類を見ないほどの厳しい景観条例が制定されている。住民と町役場が何度も話し合いの場を持ち、取り決めたものだ。
もう一つの問題と思われていたこの条例は、思わぬ展開を見せた。「意外だったのは、住民のほうがより厳しい条件を持ち出してきて、むしろ行政側がブレーキをかける場面が多く見られたこと」と平泉町役場総務課課長補佐の高橋誠さんは語る。「世界遺産のためにするのではなく、自分たちの子孫に対して、誇れる景観を残しておくためにするべきこと」という住民の強い願いが感じられたという。最も厳しい地区では、建物の最大高が10m。屋根の勾配や植栽の最低面積基準まで設けられている。
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