情報誌「ネルシス」 vol.6 2005

P-26 護岸の風景(青森ベイ・プロムナード/鹿児島本港の歴史的防波堤/アーティストがつくる護岸の風景:中国YiWi South Riverbank
P-32 がんばる自治体のまちづくり奮闘記 長野県高井郡小布施町/コミュニケーションが町を豊かにする 北斎が紡いだ、うるおいのあるまちづくり

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目次
港湾・海岸に求められる防災対策
話し手……国土交通省港湾局海岸・防災課
近年、地震や台風などの自然災害が深刻化している。
2004年に発生したスマトラ沖地震での被害状況は、人々に大きなショックを与えた。
特に地震大国といわれる日本においては、このような津波による災害は他人事ではすまされない、わが身にも起こりうる重要な問題だ。
日本の港湾や海岸を所管する国土交通省港湾局ではどのような対策を行っているのだろうか。同省同局海岸・防災課に話を伺った。
国土交通省港湾局海岸・防災課における取り組み
大規模な災害が発生した際には、海からの緊急物資の輸送が非常に重要な役割を担います。そのためには、大きな地震でも壊れない岸壁が必要であり、現在、全国で耐震強化岸壁の整備というものを進めています。
 また、津波や高潮被害を軽減するためには、護岸や堤防の整備と合わせて、浸水想定地区や避難地・避難ルートなどを示すハザードマップにより、住民の方の確実な避難を実現することも重要です。国土交通省港湾局では、市町村が作成する津波・高潮ハザードマップの作成に対するさまざまな支援を行っています。
近年では、住民の方が主体となってハザードマップを作成することにより、防災意識の向上や地域に即したマップの作成などに取り組むとともに、新しい数値シミュレーションの開発やアニメーションの使用などによる精度向上についても調査を行っているところです。
[左]ワークショップの様子[下]津波ハザードマップの例

近年発生した災害から防災対策を再検討
2004年は、観測史上最多となる台風の上陸、新潟県中越地震の発生など、非常に災害が多い年となりました。また、2005年3月に発生した福岡県西方沖地震では九州地域の約6割の麦を扱うなど、九州の物流の中心を担う博多港が大きな被害を受けました。
 さらに、2004年末のインド洋大津波による未曾有の被害は、わが国における津波対策の重要性について再認識したところです。このようなことから、専門家の意見を聞きながら、港湾において必要な防災対策について再検討を行ったところです。
「地震に強い港湾のあり方」(平成17年3月)交通政策審議会答申の概要
「ハード対策を中心とした施設整備からハード・ソフト対策の一体的な展開へ」「行政を主体とした取り組みからさまざまな関係者との連携へ」「整備量の目標から必要な機能の目標へ」などの新たな視点のもと、これまでの港湾における大規模地震対策の見直し。
各地で大規模地震の発生が切迫するなか、災害に強い海上輸送ネットワークの構築と地域の防災力の向上を図るため、大規模地震時に港湾に求められる
防災機能を明確にし、それぞれの機能を強化する施策の強力な推進が必要。
【港湾における大規模地震・津波対策の展開】
(1)災害復旧における防災拠点機能の強化
●大規模地震の切迫性や海上輸送への依存度等を考慮した耐震強化岸壁の整備
●仮設住宅の建設や大量に発生する瓦礫の仮置・処分用地としての港湾の利用 等
(2)被災地域における物流拠点機能の強化
●コンテナターミナルの耐震化目標(既存ストック施設量の3割)の見直し
●緊急物資輸送やコンテナ輸送以外の重要な岸壁についても耐震性を向上 等
(3)代替輸送に対する支援機能の強化
●岸壁の相互利用等の港湾間連携の強化
●港湾被災情報発信システムの構築 等
(4)津波災害に対する防護機能の強化
●避難施設等の整備による港湾労働者等の避難対策の強化
●GPS津波計によるリアルタイム観測
●津波防護効果を考慮した防波堤の整備 等
【対策の着実な推進に向けての取り組み】
●関係行政機関や民間事業者による地震・津波対策協議会を組織
●耐震強化岸壁の再点検
●各港の対策状況の評価、公表 等
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景観や利用者を考慮したウォーターフロントや海岸の防災整備の推進
津波や高潮の被害から市街地を防護するため、護岸や堤防などの施設の整備を行っていますが、従来は、眺望を阻害するような高さの堤防や、消波ブロックにより海辺に近づけないなど、防護のみに視点をおいた施設の整備でした。しかし近年は、緩傾斜護岸や砂浜などによって防護効果を維持しつつ、利用者や景観に配慮した海岸整備を行っています。
【・・・・・・・ 整備事例 ・・・・・・・】
津田港海岸(香川県琴林地区・浸食対策事業)
津田港海岸は、津田の松原(国立公園第二種特別地域)で知られる白砂青松の地であり、瀬戸内海の播磨灘に面した弓状の地形を有している港湾です。海岸浸食対策として1970(昭和45)年度より海岸保全施設の改良整備を行ってきましたが浸食傾向は止まらず、前浜の消失・消波ブロック前面までの海面の接近など、早急な対応が必要とされていました。
 このため1990(平成元)年度
から、ふるさと海岸整備モデル事業により、既設消波ブロックを活用した離岸堤の設置・砂浜造成による消波機能の確保・既設護岸の階段化・飛沫防止のための植栽を行いました。これによって、前浜を復元して越波・飛沫防止を図り、背後住民の民生の安定を確保するとともに海岸のかつての姿を回復し、新しいまちづくり計画と調和のとれた、安全でうるおいのある海岸空間を創出したものです。
津波における最新の防災システム
津波が発生した場合にいち早く情報を入手し対策を行うため、国土交通省港湾局ではGPS(Global Positioning Systemグローバル ポジショニング システム:全地球測位システム)津波計の研究開発に力を入れています。従来は海底にセンサーを設置し、陸上までは海底ケーブルでつないでいましたが、海上に浮かべたブイにセンサーを取り付け、GPSでブイの移動を測定することによって、より沖合での津波の観測を行うものです。
 これにより、より早く、津波の観測が可能となり、住民の早期避難が期待されます。
 また、リアルタイムで全国の波の状況がわかるシステムも公開されています。ナウファス(NOWPHAS= Nationwide Ocean Wave information network for Ports and HArbourS:全国港湾海洋波浪情報網)は、独立行政法人港湾空港技術研究所の相互協力のもとに構築・運営されているわが国沿岸の波浪情報網です。
 港湾空港技術研究所においては、1970年以降継続して、ナウファス波浪観測データの集中処理・解析を行っています。2005年4月現在において、全国59観測地点(波高・周期59地点、波向47地点)でリアルタイム観測を行っており、ホームページ上で簡単に、リアルタイムデータを見ることができます。
 ナウファス波浪観測情報は、気象庁による波浪予報にも活用され海の安全に貢献するとともに、蓄積された長期間のデータの統計解析を通じて、港湾・海岸・空港事業の計画・調査・設計・施工をはじめとした沿岸域の開発・利用・防災に、幅広く活用されています。
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