情報誌「ネルシス」 vol.8 2007

P-02 [特集]都市の空間を活かす 21世紀のランドスケープ・エコロジー
P-12 社会実験で試されたオープンカフェの効果―新宿・モア4カフェ

P08-11
目次
大阪・道頓堀に生まれた川辺の遊歩道
遊覧船で道頓堀川を楽しむことも。「とんぼりリバークルーズ」は2008年3月まで河川工事等のため運休
とんぼりリバーウォーク
大阪の観光名所のひとつ「道頓堀川」。その存在は全国的に有名でありながら、メイン通りの裏手にあるため、これまで人が川に近づくことはできなかった。大阪市では、この貴重な水辺空間を生かし大阪をさらに魅力あるまちにしようと取り組み、道頓堀川に遊歩道が誕生した。水を間近に感じられる気持ちのいい環境と社会実験としてのイベント開催で、新しい憩いの場として川辺に人々が集い始めた。

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左●遊歩道の幅は8mあり、ゆったりとしたスペース。買い物で行き来するほかに、川に向かって設けられた階段に腰掛け、くつろぐ人の姿も多く見られる 右●夜になると川面に道頓堀の明かりが映り込む
繁華街に憩いの空間を
大阪を代表する繁華街「ミナミ」と「キタ」。そのひとつ、難波から道頓堀にかけて広がるミナミは「食い倒れのまち」として知られる。なかでも道頓堀は飲食店を中心とした商店が連なり、夜には江崎グリコをはじめとする数々のネオンサインが光り輝く華やかなエリアで、昼夜問わず多くの人が訪れる観光名所でもある。
 この道頓堀の北側に位置し、宗右衛門町通りに挟まれた道頓堀川は、ミナミを東西に流れる一級河川。まさに繁華街の中心にあり、大阪を象徴する存在だが、これまで橋の上からしか眺めることのできない閉ざされた川であった。
 「1950年のジェーン台風による高潮対策事業を皮切りに、昭和40年代には汚濁対策と高潮防御として舟形の高い護岸が造られ、次第に道頓堀川に人が近づきにくい構造になっていきました。河川についてはもともと、治水と利水という目的があるため、水をいかに海へ流すかということに取り組み、その結果、川がコンクリートの壁で覆われた状態になってしまったのです」と大阪市建設局下水道河川部河川担当係長の染谷氏は、その理由を話してくれた。
 しかし近年、全国的に水と触れ合う生活の重要性が見直され、1997年には河川法がこれまでの治水、利水に
「環境(水質、景観、生態系等)の整備と保全」という目的を加え改正された。また、大阪では20 01年、国による21世紀型都市再生プロジェクトの選定を受け、「水の都大阪」再生に向けた大規模開発が進められている。  
 道頓堀川でも、もっと人々に水に親しんでもらおうと整備事業が行われ、2004年12月に完成したのが「とんぼりリバーウォーク」だ。両岸に設置された遊歩道は、川のせせらぎと御影石、ウッドデッキで構成された広々としたスペースによって、繁華街にありながら、まちの喧騒から一歩距離を置いた、憩いの空間を演出している。

遊歩道は
なにわの水辺劇場
道頓堀川はもともと、物資輸送のために運河を開削し1615年に完成した堀川で、この開発に伴って周辺にはのちに歌舞伎の中座(現松竹座)となる中之芝居などの芝居小屋が立ち並び、芝居町として栄えた歴史をもっている。
 この歴史的背景を生かそうと「なにわの水辺劇場」をテーマに、とんぼりリバーウォークのデザインは進められた。今回整備された戎橋から太左衛門橋までの170mに及ぶ区間は、幅8mある2段式の遊歩道になっていて、通行するだけにとどまらず、イベントステージとなる広場的空間やパラソルを
置いたカフェテラス的空間が設られた多機能なつくりになっている。
 「遊歩道の上段の御影石は昔の掘割を、下段のウッドデッキは桟橋をイメージしています。ここは繁華街ですから、買い物などをする人が通るための歩道を上段に、さらに川に近づいてもらえるよう、そこから下りて水際で楽しめるスペースをつくりました。いままで、道頓堀川は通りの裏であり、店舗の室外機が置かれているような場所でしたが、とんぼりリバーウォークができたことで、第二の正面として川に向かって入り口を開く店も増えています。いままで人が立ち入れなかった場所が、人と水辺が出会うことにより、
新たに憩いと賑わいの環境に生まれ変わりました」と染谷氏。
社会実験のイベントで
開かれた水辺に
国土交通省では2004年3月に「都市及び地域の再生等のために利用する施設に係る河川敷地占用許可準則の特例措置について」の通達を出し、一定条件のもとで河川敷地でのイベントや物販行為を認めた。道頓堀川もその対象となり、とんぼりリバーウォークでは、にぎわい創出を目的に社会実験としてさまざまなイベントを行っている。
 イベントはルールに基づけば誰でも開催でき、1カ月前から申し込みを受け付けている。

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ライトアップされ華やかな演出が印象的な光のイリュージョン
難波八阪神社船渡御。遊歩道ができたことで近くで見物できるようになった(写真上ともに写真提供:大阪市建設局下水道河川部河川担当)
地元の商店会やNPOが歳事にまつわるイベントを多く行っているほか、一般企業がPRやオープニングイベントに利用することもあり、参加数は年を追うごとに増している。
 「夏祭りの難波八阪神社船渡御では、これまで道頓堀川を渡る船を橋の上からしか見ることができませんでしたが、遊歩道ができたことで間近で楽しめるようになりました。また、2006年末に行った光のイリュージョンの際には、心斎橋から難波へと直進していた人の流れがほかへも向かうなど、イベントを行うことで人通りも変わってきています。坂のある風景が人を惹きつけるように川もまちを表す資質のひとつ。道頓堀川を通じて、まちと川の環境をよりよくしていきたい」と話す染谷氏。
 これまで人々が背を向けていた水辺を表舞台へと再生させた、とんぼりリバーウォーク。今後もさらに範囲を広げ道頓堀川の水辺整備を進めていくという。川をまちと一体となった豊かな環境ととらえることで、水辺に新たな集いの場がつくり出されていく。

上・下左●2段式の遊歩道には階段のほかスロープも設けてある 下右●遊歩道整備に伴い、太左衛門橋も木を用いた新しいデザインに。かつては橋の上からしか川を見ることができなかった
以前の道頓堀川。両岸は人が入ることはできなかった(写真提供:大阪市建設局下水道河川部河川担当)


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